おすぎむら昆の映画レビュー「あんなま」

鑑賞した映画に対して個人的な感想を書いていきます。

『フロントライン (2025)』【85/100点: 「どこかで面白がってないですか?」】

コロナ禍初期の事件であった大型旅客船ダイヤモンド・プリンセス号船内の大規模クラスター感染の発生時に船内に派遣されたDMAT(災害医療派遣チーム)の人命救助作戦も描いたドラマ。小栗旬窪塚洋介松坂桃李池松壮亮とワタクシと同年代くらいの奥様が鼻血を出して喜びそうなメンツではありますが、対して本作の内容は事実を基にしている為、これ以上ないくらい真面目。

「邦画も頑張ってるじゃん」と思わされる映像のダイナミックさの中、本作で描かれるのは現場を掻き乱すマスコミの偏向報道や未知の脅威への無理解や差別と闘う医療関係者たち。『国宝』もワタクシは絶賛させて頂きましたが、本作も本作で大変良く出来た一作でございます。プロデューサーは、Netflix福島第一原発事故での吉田昌郎所長や原発職員の姿を描いたドラマ『THE DAYS』を作った元CXの増本淳。スタンスとしてはあのドラマとほぼ一緒です。

≪ネタバレなし≫

お話

2020年2月3日、乗客乗員3711名を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客1名に新型コロナウイルスの感染が確認されており、船内では100人以上が症状を訴えていた。日本には大規模なウイルス対応を専門とする機関がなく、災害医療専門の医療ボランティア的組織「DMAT」が急きょ出動することに。彼らは治療法不明のウイルスを相手に自らの命を危険にさらしながらも、乗客全員を下船させるまであきらめずに闘い続ける。(映画.comより)

コロナ禍初期を戦った人たちの話

思い返せばもう5年も経つのか、と思うコロナ禍ですが、“未知のウイルス”の蔓延というほとんどの人が経験したことがない状況の中、日本国内でも初めてその事象が問題視され始めたのがこのダイアモンド・プリンセス号の事件だったかと思います。実は当時、日本にはウイルス感染に対する対策がなかったとのことで、周辺の病院や医療機関が拒否する中、厚生労働省が指名して同船の対応に臨んだのが、東日本大震災でも名前をよく聞いた指定医療機関で組織された災害医療派遣チーム(DMAT)でした。

この流れがあったこと自体、ワタクシは全く知らなかったんですが、知見も乏しい中、新型コロナウイルスと戦うDMATのメンバーたち、松坂桃李演じる厚労省の役人の姿が描かれます。

「日本国内にウイルスを持ち込まない」という命題、そして収束が見えない状況に登場人物は各々疲弊をしていくのですが、「まあそうなるよね」とは思いつつも、事実に沿った話なので見応えは十分です。製作陣の真摯な姿勢を感じる真面目な展開には目を離せません。

身勝手な偏向報道

また、本作ではマスコミの偏向報道が及ぼす影響について取り上げられており、現場状況を客観的に批判する存在(テレビコメンテーターなど)がいることや、マスコミの報道方法が結果的に医療従事者に対する差別になったりと、「報道」の影響が描かれます。

その上で小栗旬演じる結城医師が中盤で発する「(マスコミはこの状況を)どこかで面白がってないですか?」というセリフはなかなか強烈で、マスコミに対してだけでなくTVやWEB、SNSで簡単に意識誘導をされてしまう我々にも向けられたセリフのようで考えさせられました。*1

登場俳優の静かな熱演が光る一作

主演4人も静かな熱演が見応えがありましたが、森七菜や桜井ユキなど、過酷な状況に翻弄されつつ自分の意思を持って行動する存在が居ることも印象的でした。大変真面目に纏められた映画なので、「こんなことがあったんだ」という驚きと考えさせられる展開が非常に良かったです。エンタメが求められがちな邦画の中でも異色とも言える物凄く硬派な一作でした。

*1:ちなみにこの内容もあってか、この手の大作にはスポンサーで必ず付く報道機関各社の名前が一切ない。