おすぎむら昆の映画レビュー「あんなま」

鑑賞した映画に対して個人的な感想を書いていきます。

『異端者の家 (2024)』【85/100点: 宗教論破サスペンススリラー】

キリスト教プロテスタント一派である末日聖徒イエス・キリスト協会、いわゆるモルモン教のシスター2人が、頭脳明晰で笑顔が怖いオジサン(演じるのはヒュー・グラント!)が住む迷路のような家から脱出を図ろうとするサスペンス・スリラー。

≪ネタバレなし≫

お話

若いシスターのパクストンとバーンズは、布教のため森の中の一軒家を訪れる。ドアベルに応じて出てきた優しげな男性リードは妻が在宅中だと話し、2人を家に招き入れる。シスターたちが布教を始めると、リードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開。不穏な空気を察した2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、携帯の電波もつながらない。

教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは言う。実はその家には、数々の恐ろしい仕掛けが張り巡らされており……。(映画.comより)

キリスト教一派「モルモン」のシスター

あまりにも禁欲的すぎて、エホバの証人とごっちゃにされていたり、ブラックコメディアニメ『サウスパーク』の劇中でこき下ろしそのものの歌も作られていたモルモン教ですが、ヒューが演じる役柄もサウスパーク的な矛盾を問こうとするヤバいヤツで、挙句の果てに大袈裟すぎるクイーンズイングリッシュで女性2人を捲し立てるので凄まじい迫力です。

ちなみに、シスター2人を演じるのは新進気鋭の女優であるソフィー・サッチャーとクロエ・イーストで、2人とも現在は信仰心はないもののモルモン教の家庭で育ったんだそうです。

ew.com

地獄のマシンガントーク

ふと入ってみたらやべえ家だった、という最近のサスペンスのトレンドな設定でありつつも、その対象がイケオジ&キラースマイル俳優のヒュー・グラントであるのがポイントで、純粋にモルモンの教えを布教していただけの2人のシスターを、若干要塞状態の家とマシンガントークで追い詰めていきます。

この設定がなかなか面白く、最初は「へえ、君たちの宗教ってどんな教えなんだ」と紳士的に聞いているものの、気が付けば「でもそれって矛盾があるよね?」とばかりに教示の矛盾点を指摘していきます。観ているこっち側からしても「逃げろ!」と思ってしまうくらいの捲し立て具合ではあるんですが、純粋なシスター2人も所属協会からの布教に対するノルマもあり、そう簡単に引き下がれないという設定も利いています。

前半はヤバい人との攻防、後半は脱出劇

そんなワケで前半は徐々にサイコパスな一面が見えてくるヒュー・グラント演じるミスター・リードとシスター2人の会話劇で、マシンガントークの後にいつの間にか逃げ場が無くなっていたシスター2人の攻防が後半では描かれます。このマシンガントーク自体も案外考えさせられることを言っているのもポイントで、敬虔なシスターを「ほんとにモルモンを心から信じてるの?」とばかりに翻弄していく様は地味ながらもサスペンス性を高めててとても良いです。真綿で首を絞めつけられる、とはまさにこのことでしょう。

後半に関してはよくある脱出サスペンスになってしまうものの、シスターのまさかの結末に、ミスター・リードがシスター2人をターゲットにした真意であったりと、その展開を絡めつつ物語が進むので飽きさせません。なかなか面白いサスペンス・スリラーで、またぜひ観てみたい傑作でございました。