おすぎむら昆の映画レビュー「あんなま」

鑑賞した映画に対して個人的な感想を書いていきます。

『宝島 (2025)』【70/100点: 絶対にもっと長くした方が良かった】

東映が約25億円を掛けて製作した叙情詩的な人間ドラマで、沖縄県内の嘉手納基地周辺に住む若者たちの群像劇。邦画といえば10億円いかないくらいの製作費が相場ですが、その2倍をゆうに超える製作費。しかし内容は米軍基地問題を根底としただいぶポリティカルな内容。東映も攻めたなあと思っていたら案の定大コケをしているらしいんですが、沖縄が太平洋戦争中における日本唯一の決戦地であることの因縁なども盛り込まれており、この内容で大作を作ったこと自体は大変意義のあると個人的に思います。

ただ、描くべき要素が多かったこともあるのか、物語自体はかなり駆け足であり、人物設定や成り行きの唐突さも否めず、ワタクシ的には「2部作にするか、配信でシリーズ化するか」などの選択肢もあったんじゃないか、と思ってしまったのも正直本音です。若松孝二の映画ばりの政治的な内容ながら、この駆け足な点だけはとても残念な部分でした。

《ネタバレなし》

お話

1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民らに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。そんな戦果アギヤーとして、いつか「でっかい戦果」をあげることを夢見るグスク、ヤマコ、レイの幼なじみの若者3人と、彼らにとって英雄的存在であるリーダー格のオン。しかしある夜の襲撃で“予定外の戦果”を手に入れたオンは、そのまま消息を絶ってしまう。残された3人はオンの影を追いながら生き、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、それぞれの道を歩んでいくが、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境で、思い通りにならない現実にやり場のない怒りを募らせていく。そして、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す。(映画.comより)

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・オキナワ」

米軍基地に忍び込み物資を奪う義賊的な活動をする孤児のグループ“戦果アギヤー”のリーダーのオンとその仲間たちは、とある日に嘉手納基地に侵入するが、この行動があえなく失敗しリーダーのオンが行方不明になってしまう。時が経ち、残された仲間のグスクは警官へ、オンの弟レイはアウトローの世界へ、オンの恋人であるヤマコは教師になり、それぞれでまだ生きていると思われる“オンちゃん”の姿を追うが…という話。

要は“ワンス・アポン・ア・タイム・イン・沖縄”といった内容のストーリーで、役者陣は有名どころが大熱演。セリフ回しもいわゆる“うちなーぐち”で、「『トレインスポッティング』があまりにもスコットランド訛りが凄すぎて北米公開の際に字幕が付いた」という逸話がふと浮かんで「なるほどこんな感じだったのか」と思ってしまうほど。うちなーぐちでの応酬も最初はかなり戸惑いますが、序盤の山場(米軍用機墜落あたり)にはなんとなくわかってきます。

結構内容はポリティカル

内容も“戦果アギヤー”の英雄であるオンの行方を追うという根底はあるものの、作品中では割と初っ端から在留米軍人の悪行を描くという刺激的な展開で始まり、その後も相当ポリティカルな内容を描写していくので、個人的にはその忖度の無さに対して一定の評価があっても良いんじゃないか、と思うところです。きっと俳優陣も内容が内容だけに出演自体もかなり悩むであろう内容だったでしょう。

明確なマイナス=説明尺が足らない

ただ、そんな明確な評価点は有りつつも、情報量の多さもあり、話の唐突さや人物の考えがコロッと変わったりと、分かりやすく「これ実はもっと撮ってるんじゃないか?」と思う編集がされていたりします。

本作のレビューでチラホラ「長い」と言われているのが散見しているような気がするのですが、ワタクシ的には「むしろ短いんじゃないか?もっと説明カット増やすべきでは?」って思いました。いずれにせよ、同じ3時間尺の中で直球のヒューマンドラマだった『国宝』などと違って、こっちは割と政治的に考えさせられる映画なので、興行的な部分もハナから期待には届かなかっただろうと思う部分もあり、割り切ってもっと長尺でまとめる覚悟を持てばもっと良い作品になっただろうに、と思うととても残念な映画でもあります。