おすぎむら昆の映画レビュー「あんなま」

鑑賞した映画に対して個人的な感想を書いていきます。

『国宝 (2025)』【90/100点: 歌舞伎役者の「才能」と「血」とは】

任侠の家系に生まれ、色々経緯あって渡辺謙演じる花井一座と生活することになり、一流の女形歌舞伎役者として頭角を表すことになる青年・立花喜久雄の役者人生50年を追った人間ドラマ。

主演は年明けに色々あった吉沢亮ですが、別に茶化してるワケでもなんでもなく、誰がどう見ても大熱演をしています。ライバル役はこちらも若手俳優筆頭の横浜流星。「才能」か「血」、2人の対照的な青年を通して、歌舞伎という伝統芸能の数百年を辿る物語が描かれます。先に書いておきます。

傑作です。

≪ネタバレなし≫

お話

任侠の一門に生まれた喜久雄は15歳の時に抗争で父を亡くし、天涯孤独となってしまう。喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎は彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込むことに。

喜久雄は半二郎の跡取り息子・俊介と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく揺るがされる。(映画.comより)

「歌舞伎」映画

監督は『悪人』や『怒り』の李相日。演技指導が厳しいとよく言われる監督ですが、それは完璧主義の裏返しなのか傑作が多い監督で、例に漏れず本作もなかなか見応えがあります。

ワタクシ的には年明けに実際に銀座の歌舞伎座で歌舞伎を鑑賞する機会があったことも本作を観た要因であり、劇中での歌舞伎シーンも美術監督種田陽平氏の見事な舞台セットもあり、まるでシネマ歌舞伎を観ているかのような迫力。いや、逆にシネマ歌舞伎を観たことがないんですが、まあこのくらいの迫力に違いありません。

またストーリー自体も抜群に面白く、天性の「才能」を持った女形歌舞伎役者の喜久雄(吉沢亮)と、代々続く女形の家系の「血」を持った俊介(横浜流星)のライバル関係、簡単には解けない友情の物語は目頭が熱くあります。お互いがお互いの「育ち」に嫉妬をし、共鳴し合い、それぞれの人生を歩み始めます。それでも2人の絆は硬く結ばれ、その心象風景としても劇中の歌舞伎が機能しています。

この構成が本当にグッときたなあ!

映像と音楽のシンクロぶりが良い

また、生前の坂本龍一のコラボレーターとしても知られる原摩利彦の音楽も見事で、純和風な歌舞伎な映像にポストクラシカルな音楽が絶妙にマッチしており、こちらもワタクシ的には取り上げたいポイントです。特に劇中歌舞伎『鷺娘』の場面なんて、それまでの展開もあったからか久々に映画館で「うわあ音楽と映像が完全にシンクロしてらあ…」と息を呑んでウットリしてしまいました。

スクリーンに居たのは「喜久雄」

展開自体は割と残酷で重々しい話でありつつも、劇中の歌舞伎場面の神々しい美しさや、“歌舞伎役者”としての役柄…というより吉沢亮横浜流星の成長が見えてくるドキュメントチックな面白さ、そして共鳴し合いながら数奇な人生を送る2人のブロマンス的な関係。3時間のランタイムも見事にたっぷり使い、それでいて全く飽きない。渡辺謙が記者会見で「これは吉沢亮の代表作になる」なんて言ってましたが、これに関してはワタクシもそう思いました。

なんたって、吉沢亮が演じている「喜久雄」という役柄、というより喜久雄という存在自体が憑依した吉沢亮だったんですから。横浜流星を筆頭に脇を固める俳優陣も軒並み上質。見応え十分な一作でございました。

原作

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