おすぎむら昆の映画レビュー「あんなま」

鑑賞した映画に対して個人的な感想を書いていきます。

『ロングレッグス (2024)』【55/100点: 10年に一度の怖い映画、ではない】

猟奇連続殺人事件を調査を行う新人FBI捜査官と、連続殺人犯“ロングレッグス”の攻防を描いたサイコスリラー。タイトルロールである悪役“ロングレッグス”を脂っこい演技に定評があるニコラス・ケイジが、もはや誰だか分からないような特殊メイクで演じています。新人FBI捜査官のリーを演じるのは、『イット・フォローズ』など、通好みのサスペンスやホラーでお馴染みのマイカ・モンロー

尚、監督のオズグッド・パーキンスってワタクシ誰だか知らなかったんですが、なんと『サイコ』のノーマン・ベイツ役として知られるアンソニー・パーキンスの息子さんだとか。オズ監督自身の子供のころの家庭環境が反映されているとかなんとか、っていう部分もあるそうで、ニコラス・ケイジの脂っこい演技もあり、『サイコ』よろしく、終始作品の雰囲気は不気味です。展開がもうちょっと面白ければ良かったのに、と思ってしまうちょっと勿体ない映画でした。

≪ネタバレちょっとあり≫

お話

1990年代のオレゴン州。FBIの新人捜査官リー・ハーカーは、上司から未解決連続殺人事件の捜査を任される。10の事件に共通しているのは、父親が家族を殺害した末に自殺していること。そしてすべての犯行現場に、暗号を使って記された「ロングレッグス」という署名入りの手紙が残されていた。謎めいた手がかりをもとに、少しずつ事件の真相に近づいていくリーだったが……。(映画.comより)

「10年に一度」は言い過ぎ

話としては、未解決の一家連続殺人事件を追うFBI捜査官リーが、それぞれの事件の共通点として「父親が妻子を殺害し自殺する」という事件内容があり、そんな中、捜査線上に連続殺人犯“ロングレッグス”と呼ばれる中年男性が浮かび上がります。“ロングレッグス”の操作を進めると、リー自身にも関係する恐るべき真実が発覚し…という内容。

北米では「10年に一度の怖い映画」として宣伝されたそうで、日本公開の際も予告編やチラシなどでその文言が踏襲されているのですが、まあぶっちゃけ全然怖くありません。本作の内容として、北米ホラーによくある異教徒要素が入ってくるので、当然ながら大多数の人が神道と仏教のチャンポン国家の人間として生きている(ワタクシ然り!)人には何にも響いてこない「怖さ」なワケです。実際、異教徒要素的な話なら、本作の何倍も薄気味悪かった『ヘレディタリー』の方が怖かったですし、それと比べてもいまいちパンチの効かない演出は眠気を誘いました。

欧米ホラーっぽくないけど、話は割と強引

北米ホラー的なジャンプスケアも少なめで、お上品な雰囲気の映画ではあるものの、そんな良くも悪くも雰囲気に全振りした演出のおかげもあり、何度か「結局なんもないんかい」というツッコミをしそうな感覚もありました。ミステリー的な内容も、序盤は「どうなるんだろう」と興味が沸く話だったものの、真相が見え始めてからは割と強引な話に。まあホラー映画・スリラー映画で話が強引じゃない作品ってあんまりないので、ここら辺は許容範囲でもあるんですが。

真っ白ニコラス(笑)

とはいえ、山海塾ばりに真っ白で、加えて特殊メイクでもはや別人という、要は“声だけ”ニコラス・ケイジが演じる“ロングレッグス”はなかなか強烈で、初見からあたおか感を感じる登場の仕方はニコラス・ケイジの面目躍如と言ったところ。薄幸で不眠症っぽいFBI捜査官を演じるマイカ・モンローから漂うヘビーでダウナーな雰囲気も最高で、こういうスリラー映画ではあんまり見ない武闘派な雰囲気も少し内包しているヒロインぶりもなかなか面白かったです。

そんなワケで、なんかもうちょっと盛り上がりだったり、人怖感だったり、そういうのが欲しかったものの、あんまりそこら辺の要素がない、良くも悪くも手堅いスリラー映画でした。とはいえ、雰囲気の演出は結構秀逸だったので、そこら辺は見ごたえはありましたが。オズ監督の次回作はスティーブン・キングの短編小説『猿とシンバル (The Monkey)』を映画化した内容だそうで、それはそれで興味があるので、公開したら観に行ってみたいですね。