かつての大スター女優が違法の再生医療に手を出して精神が崩壊していく様を描いた、昔のデヴィッド・クローネンバーグ監督っぽいSFボディホラー。精神だけでなく身体の様相まで変容していくエリザベスを演じるのは『ゴースト/ニューヨークの幻』など、実際に“かつての大スター女優”の1人であるデミ・ムーア。
ブラット・パック出身の仲間であるトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』最新作と同時期に公開*1ということで、トムは「動き」、デミ・ムーアは「美」という、昨今の60代による超人的アンチエイジングを見せつけられ、非常に感慨深かったです。まあ、こっちもあっちも内容はブッ飛んでましたが。
【ネタバレなし】
お話
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベスは、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という違法薬品に手を出すことに。薬品を注射するやいなやエリザベスの背が破け、「スー」という若い自分が現れる。
若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、たちまちスターダムを駆け上がっていく。エリザベスとスーには、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったが、スーが次第にルールを破りはじめ……。(映画.comより)
クローネンバーグの映画だ!
そんなワケで、ついに平均寿命折り返しの年齢に近づいているワタクシとてあまり他人事ではない「性格の老化」「ビジュアルの劣化」「解消できない承認欲求」と、デミ・ムーアによる身体を張った熱演によって“歳を取る辛さ”を見せつけられるんですが、痛々しいだけの内容にするのではなく『ザ・フライ』よろしくビジュアルまで変容していくエリザベスの姿がとても面白く映像化されています。
CGも割と最小限らしく、大多数は往年のクローネンバーグ映画のようにプラティカル・エフェクトでやっているんだそうで、拘り抜いたエログロな映像演出はワタクシ的に大変好みな雰囲気でございました。
「ハラスメント」「ジェンダー」…いろんな問題
それだけではなく、デニス・クエイドが演じるテレビの重役など、ハラスメントばりばりの男性の存在であったり、スーになった途端に色目を見せてくる隣人、そして老いの原因(エリザベス)を敵視し始めるスーと、ジェンダーや中年の危機などのメッセージ性も盛り盛り。
「ボディホラーで尺2時間半は長くないか」と鑑賞前は思ったものの、触れている要素の多さや、その強烈で派手な演出のおかげで飽きる瞬間がありませんでした。
60代には全く見えないデミ・ムーア
そして何より、デミ・ムーアの冒頭からの美しさが見事。作品の設定上、エリザベスは50代前半となっているんですが、全然違和感なく演じており、「もしやこれも本作に仕掛けられたエイジハラスメント的な皮肉なのか」と穿って考えてしまうくらいのビジュアルの綺麗さです。ビジュアル最高状態のエアロビ場面から、“サブスタンス(=スー)”の暴走で老婆に、それだけでなく肉塊にまでなってしまうデミ・ムーアの存在感もここに来て最高潮に。90年代中期で出る映画を間違えすぎて*2一気に落ち目になっちゃったデミ・ムーアでしたが、そんな不遇に時代をバネにするかの如く、30年越しにハッちゃけた演技で頑張ってらっしゃいました。
トムとデミで「アンチエイジング」を考えさせられる
たま~にある往年のスターが大ハッスルする映画ではありましたが、内容も盛り盛りの特上カツ丼状態で飽きさせず、大変楽しめる映画でございました。ラストで強烈な展開も含めて、どんなお話に転がっていくか分からないようなナンセンスな構成もとても面白く、続けて観た『ミッション:インポッシブル』と同じく…まあアレですね…「アンチエイジング」についてとても考えさせられましたね。
傑作です。