キムタクが不愛想なタクシー運転手、倍賞姉妹の姉・倍賞千恵子がお金持ちの老人を演じるタクシーが舞台の人間ドラマ。フランス映画の『パリタクシー』という映画のリメイクだそうですが、それ自体はワタクシ全く観たことはないんですけど、本作はなかなか考えさせられる良い映画でした。
監督は『男はつらいよ』シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』など、人間喜劇の巨匠である名匠山田洋次。山田監督、なんと今年で94歳という現代邦画界の生き字引的な年齢になってしまいましたが、ここに来てジワっと沁みる一作になっています。
≪ネタバレなし≫
お話
タクシー運転手の宇佐美浩二は、85歳の高野すみれを東京・柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれの「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」という頼みを受けた宇佐美は、すみれの指示で各地へタクシーを走らせる。旅を共にするうち、次第に心を許したすみれから語られたのは、彼女の意外な過去だった。タクシーの運転手と客として偶然出会った2人の心、そして人生が大きく動き始める。(映画.comより)
「タクシー」内の一期一会の話
ワタクシもお仕事でよくタクシーに乗るのですが、タクシー運転手と乗客、よっぽどのことが無ければ一期一会の関係で、車内の会話も他愛のない話で終わるってのが大体ですが、本作の話としては、終活を行う老人が東京を離れる折に思い出の地を巡りたい、という理由でタクシーで数時間の旅をすることに。最初はお互い不愛想だったものの、昔話などを話しているうちにいつしか打ち解け合い、老人の壮絶な過去を振り返っていく、という話になっています。
本作のキムタクはいつものスターオーラを極力消して*1、小市民であるタクシー運転手を演じており、家のローンや娘の進学など、割と現実的な部分で悩むような現実的な家族のパパを演じています。その相手となる倍賞千恵子が演じているのは、ネイルアーティストとして財を築いた老人。高飛車な雰囲気もありつつも、キムタクが演じる運転手に心を開いていき、今まで他人に隠していた自身の過去を話す、という役柄です。
のほほんとした雰囲気の現代編とヘビーな話の過去編
映画内の半分以上はタクシーの中の会話劇なのですが、2人の掛け合いが見事にマッチしており、時に笑わされ、時に泣けます。倍賞千恵子演じるすみれの若年期を蒼井優が演じており、これがまたピッタリの役柄で、昭和の亭主関白の風潮の中で虐げられてきた女性、という難しい役柄を見事に演じています。キムタクと倍賞千恵子の掛け合いがのほほんとした雰囲気なのに対して、蒼井優が演じている若年期のエピソードが物凄くヘビーなので、この対比のような構成は結構見事でした。
山田洋次の映画らしい人間賛歌的な結末もジワっと来る部分があり、ベテラン監督の底意地とも言うべき傑作になっています。ワタクシのように都内在住だと、よく見る風景がたくさんあったのも面白いんですが、本作の中で倍賞千恵子演じるすみれが言っていた「街が変わちゃった」とボソッと呟くセリフのような時期がいずれ来ると思うと、何だかその点も切なく感じる一作でした。
*1:まあスターオーラ消し切れてるか、って言うと全然なんですけど。