おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『落下の解剖学 (2023)』【85/100点:色んなコミュニケーションの不和】

雪山のコテージから男性が転落死をした事件が発端になり、起訴されたベストセラー作家の妻サンドラの素性、それと家族不和がなどが裁判の経過過程で暴かれていき、サンドラの盲目の子供などの証言を経て、「果たしてサンドラは夫を殺したのか、殺してないのか」という疑念に対して弁護士と検察が紛糾するミステリードラマ。

カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した映画で、ワタクシ国際映画祭獲ったような意識高い系の映画って基本的にあんまり得意じゃないんですが、本作はゴリゴリのミステリーだったので楽しめました。

【ネタバレ若干あり】

お話

人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。

息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。(映画.comより)

サンドラはフランス人ではない!

まず面白いのがフランス映画なのにサンドラが喋るのはほぼ英語*1サンドラの出自自体はドイツ人という、若干複雑なアイデンティティを持っているキャラクターなこと。その複雑さも相まってサンドラの弁護士ヴァンサンも検察側も、サンドラ自身の真意を汲み取るのがとても困難な様子で、それを「落ち度」と見た検察側はサンドラを裁判所で鬼のように詰めていきます。

眼が見えない第一発見者の息子ダニエル

事件の第1発見者は息子ダニエルなのですが、こちらはこちらでほぼ盲目(厳密に言うと弱視)なこともあり、頼りになるのは耳から聞いた音と居場所を示すロープなどの触感のみ。

ダニエル自身はただただ純粋に現場検証に協力している立場ながら、当然ながら証拠としては結構弱く、しまいには「音を聞いたのはここじゃなかったかも」と母親を庇うような証言までしちゃうので、それがサンドラをより追い詰める結果にも繋がります。

結果『ゴーン・ガール』的な内容に

この展開がものすごくハラハラするワケで、「サンドラが実は殺してるんじゃ」「いやこの感じは殺してないんじゃ」みたいな、観る側に解釈を委ねてくるような作りは本当に良く出来ています。裁判自体に至っても真実を追求するというより、「この夫婦、実はこんなに揉めてたんでっせ」的なゲスい内容なので、結局「真実」ってそもそも何なんだという話になっているんですね。要は『ゴーン・ガール』的なお話になっているというか。
比較的地味な雰囲気であるものの、お話の面白さでグイグイ引っ張ってくれる上出来のミステリーで、煙に巻かれるような展開はとても秀逸。世評の大評判ぶりが良く分かる傑作でございました。犬の演技がすごいので、その場面だけでも必見という感じです。

*1:ちなみに、ベルリンとかフランクフルトは英語喋れる人がかなり多いんだそうです。行ったことないけど。