おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『アウトレイジ 最終章 (2017)』【75/100点: 死ぬつもりで日本に帰る大友】

人気ヤクザシリーズの第3弾であり、タイトルの通り最終章。疲れ切った元暴れん坊、大友親分がようやく我に返る、辞世の句的な一作です。

【ネタバレあり】

お話

前作『ビヨンド』のラスト付近で韓国へと雲隠れを画策していたかつての狂犬ヤクザ大友ですが、本作冒頭時点では無事韓国に脱出したご様子。とはいえ、韓国の済州島の歓楽街で用心棒稼業をセコセコ行っており、客観的に見たらそこそこ落ちぶれています。

そんな中、その歓楽街に関西ヤクザ花菱会の花田(ピエール瀧)が現れ、本来オプションにもないSMプレイを嬢に強要するも、最悪なことに大友がそのお店の用心棒担当だった為に大友の逆鱗に触れることに。丁々発止の後、大友の凄味に負けて花田と大友の間で200万円で手打ちとなるが、花田は毛頭払う気もなかった挙句、腹立ち紛れで大友の部下を滅多刺しにして殺害。

その結末もあり、歓楽街自体が韓国フィクサー張会長の傘下だった為、張グループ率いる韓国マフィアの面々、もとい大友はその事実に激怒し、怒らしちゃいけない組織を怒らせてしまった花菱会としても大騒動に発展。色々互いに策は練られるも、昔気質の大友は仲間を殺されたことにムシが収まらず、捨てたはずの日本の地に舞い戻り、花田のみならず花菱会への復讐を企てる、なんてのが本作のあらすじです。

前2作よりはだいぶおとなしめ

前作『ビヨンド』で綺麗に収まったはずの大友の物語でしたが、「大友ってその後どうなったの?」というファンの声も多かったのか、『ビヨンド』の余談のような続編となっております。まあ続編だから「そりゃ余談に決まってんだろ」って話ですけど。

ちょっと残念だったのが、前作『ビヨンド』の特徴でもあった“意外なキャスティング”っていうのがとても少なくなっており、Vシネの任侠俳優たちが多数出演しています。この点は俯瞰で見ればどうでも良い点ではあるものの、『ビヨンド』には「この人がこんな役を」というキャスティングの面白さもあっただけに、イメージ通りのキャストがパブリックイメージそのまま演じる様子は若干物足りなさを感じました。

大友、『~ビヨンド』の始末をつけに帰る

やっぱり面白いのがシリーズの特徴とも言える大友の立ち位置なワケです。前作『ビヨンド』のラストの通り、片岡刑事の取り返しの付かないデマ*1のおかげで日本国内に居を構えられない状態となった大友は、ある程度覚悟を持って韓国に来ているという事情があります。花菱会の花田が大友の管轄下の歓楽街でめちゃくちゃ暴れたとて、それにブチ切れて日本の組織に復讐を喰らわすという点は、実は大友に一切メリットが無いのです。

つまり、中盤以降の大友は昔気質のヤクザ特有の“仁義”で動いており、大友個人としても「(『ビヨンド』で)花菱会に華を持たせてやったのに、何故こんな仕打ちを受けなければならないのか?」という、シンプルに裏切りの連鎖にもなっているということにもなります。

リスクしかない日本帰り

本作の大友は、これまで自分が絡んだ抗争すべてに決着をつけるために日本に舞い降りているというワケで、おそらくハナから韓国に戻る気もなかったのです。言うまでもなく、中盤くらいの時点で死ぬのも覚悟の上で日本に戻ってきているので、この点を読み取るとめちゃくちゃアツいお話ということが分かります。

こういう展開もあり、『アウトレイジ』シリーズとしては随一のエモい展開となっているワケで、その結果か北野武作品の初期作のようなドライ感も加味されて描写されています。故に前作もとい前々作のような大友のアクティブなヤクザ感は皆無なんですが、前述の通り北野監督らしい死生観が色濃く描写された久々の心象風景映画となっています。

正直、パンチには欠ける

落ち着き払った作風は『アウトレイジ』シリーズとしてはかなりパンチにかけるものの、相変わらずの出来の良さは秀逸です。強いて言えば作品の制作があと数年だけ早ければ俳優陣のパワー溢れる、『ビヨンド』の正統派進化な映画となったであろう、と感じてしまう部分がちょっと残念なところでした。

*1:「兄弟分の木村の殺害を主導したのは大友」という、木村組と盃を交わした後に片岡刑事が発した花菱会へのデマ。