おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『アウトレイジ (2010)』【80/100点: 絶対に怒らせちゃいけないを怒らせると…】

北野武監督の後期代表作となるヤクザ映画で、2008年公開の監督作『アキレスと亀』までの内省的で多くを語らない無骨な作風とは打って変わって、怒号・パワーゲーム・裏切りと、フラストレーションをぶちまけるかのような演出となり、北野武監督作品としては転換点となった一作でしょう。

【ネタバレあり】

お話

関東を牛耳る“山王会”に所属する池元組の池元組長が、「外様(山王会所属ではない)の村瀬組を締めろ」と武闘派集団の大友組組長・大友(たけし)に縁故をダシに命令を出し、大友組は嫌々ながらもその「計画」を実行、大友組VS村瀬組の抗争に発展。

武闘派の名のもと村瀬組を解散まで追い込むも、大友組はまさかの破門。当然ながら腑に落ちない大友組は元凶の池元に報復を企てて、その結果大友組と池元組2組による兄弟杯の一大抗争に発展する、というのが本作の大枠のあらすじです。

「人間の汚さ」がダダ漏れ

所々にある刺激的なバイオレンスシーンやキレキレのセリフ回しは去ることながら、本作の本当に面白いところは、「ヤクザ」という存在が単純に反社会的勢力であるということ、加えてサラリーマン的なパワーゲームによる人間の汚さが見え隠れしていることなのではないか、とワタクシは思います。

この2面的な内容は、懐かしの『仁義なき戦い』シリーズでも取り上げられていた、ある意味ヤクザ映画と王道といえば王道の展開ではありますが、『仁義なき戦い』シリーズが前者の「ヤクザ」そのものに視点が寄っていたのに対して、この『アウトレイジ』では後者のパワーゲームに重点が置かれております。よく本作を語るに当たって『仁義なき戦い』の名前が引き合いに出されることも多いですが、明確なスタンスの違いはここかと思います。

お上と部下たち

特に象徴的なのが、上記のあらすじでも書いた「村瀬組を締めろ」という池元からの指令です。実は池元組は村瀬組と兄弟関係で、しかも村瀬組は違法薬物で大儲け中。さらに、村瀬組は(山王会所属ではないが)兄弟関係ということで池元組の財布にもちょろっと村瀬組のお金が入っているのは明らかで、大元の山王会的にはその仁義もクソもない関係性が許せない、というワケです。池元組としても山王会から「村瀬組を締めろ」と言われたとて、その関係性を崩したくないので傘下の大友組に頼んだ、なんて経緯となります。

少なくとも、この池元組及び大友組に対する山王会の指令は一般論の観点からでも「そりゃ山王会もそう言うだろ」と思ってしまう部分で、池元の軽薄さに割を食ったのは大友組だった、ということになります。如何せん、大友組は武闘派なモンだから色々とやり過ぎちゃう部分はありつつ、なし崩し的に手に入れた元村瀬組のシマでの闇カジノ経営の場面も、あくまで大友組なりに山王会への忠義に従ったまでのことだったりもします。

続編の『アウトレイジ ビヨンド』では「ヤクザだって守らなきゃいけない道理があんだよ」という名台詞がありますが、これはシリーズ通して一貫した大友のキャラ設定ではあり、大友自身は自分の中の道理に反することをされるとちょ〜ブチ切れるというワケなのです。

大友の親分は純粋なのです

このように、大友の親分が素直過ぎて大友組は崩壊へと向かうんですが、本作ではその不器用な男のドラマが豪華キャストで描かれます。特に椎名桔平の狂犬っぷりは逸品で、ダンディな出で立ちながら「うわ~絶対会いたくねえ~」感のある凄味は秀逸です。

本作の予想外なヒットの結果、「劇薬!」みたいなことを謳うアナーキーな描写をフューチャーする邦画が流行りだしたのですが、そんなこともあり北野武作品としては初の続編企画『アウトレイジ ビヨンド』が制作されることにもなりました。