おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『ダム・マネー ウォール街を狙え! (2023)』【85/100点: 底辺トレーダーの成り上がり】

業績不振により投資家達から空売りされていた「GameStop」という北米最大手のTVゲーム小売店の株をを巡る、大手ヘッジファンドとネット上のデイトレーダーたちのバトルを描いた映画。劇中で「現代のフランス革命」と言われてる通り、一般人VSお金持ちの図式は大変ハラハラさせ、そして痛快です。

原作は『ソーシャル・ネットワーク』のベン・メズリックの同名ノンフィクションなんですが、“ちなみに”の話だと本作の製作総指揮は『ソーシャル・ネットワーク』に重要人物として登場するウィンクルボス兄弟だったりします。*1

【ネタバレなし】

お話

コロナ禍の2020年、マサチューセッツ州の会社員キース・ギルは、全財産5万ドルをゲームストップ社の株に注ぎ込んでいた。アメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売する同社は時代遅れで倒産間近と囁かれていたが、キースは赤いハチマキにネコのTシャツ姿の「ローリング・キティ」という名で動画を配信し、同社の株が過小評価されているとネット掲示板で訴える。

すると彼の主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、21年初頭に株価は大暴騰。同社を空売りして一儲けを狙っていた大富豪たちは大きな損失を被った。この事件は連日メディアを賑わせ、キースは一躍時の人となるが……。(映画.comより)

インフルエンサーとコロナ禍

(若干怪しい)投資チャンネル的なYouTubeアカウントを運営していた、本作の主人公であるキース・ギルは「GameStop」の株に目をつけるのですが、奇しくもキースが空売り株をあえて買う作戦を思い立ったのはコロナ禍の2020年。

先の見えない不安もあり世界的に鬱屈としていた状況もあってか、ネットやソーシャル・メディアで義賊的なメッセージを発信をすればするほど賛同する貧乏デイトレーダーも増えていったのです。

「ただ株が好きなだけ」な男の闘い

キースに関して言えば、何故「GameStop」の株に目を付けたかというと単純にXBOX好きのゲーオタで、ゲームショップの「GameStop」に愛着があったってのが株購入理由。

なので、最初から最後まで「ウォール街に一泡吹かしたろ!」みたい大義も特に無く、儲け始めたら「うわァ~思ったよりも増えてるな~」みたいなマイペース。そんなナイスガイを、ナード顔俳優のポール・ダノがいつも通りの癖たっぷりの演技で、ものすごく親しみやすい非常に魅力的なキャラクターにしています。

株の「空売り」って?

本作で取り上げられてるのが株の“空売り”で、これは何やねんって話になりますが、端的に言うと市場価格の下落が見込まれる株を下落前に売り、実際に市場価格が急落して安株になった時に買い戻すことで発生する差額で投資家側の利益が生まれるというシステムです。FXで言うと逆張りのことで、要は株の青田売りっちゅうワケですね。

ただこの空売りは、遂行する大口投資家側からすると結構致命的な欠点があり、市場価格下落が見込まれるとはいえ、その後予想に反して株の買付が維持されていれば、株の市場価格は同じく維持されるかもしくは高騰。大口の投資家たちは(株が安くなってないので)買い戻しが不可能になり、つまり投資額の回収が出来なくなるので大損をぶっこくワケです。

デイトレードはスポーツだ!

立て板に水で喋るキースの弁立ちっぷりはまさに見所で、ストーリーもドンドン盛り上がっていくようなスポ根的な内容になっており、手に汗握る上質な映画でした。実話とはいえ、一泡吹かしたこと自体が奇跡みたいなお話ではあるものの、「こんな成り上がり憧れるなあ」とシンプルに思ってしまう良作です。

*1:エンドロールで「どっかで見たことある名前だな」と思って調べてみたらそうでした。ついでに言うと、原作の英題は「The Antisocial Network」だそうです。