おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『ナポレオン (2023)』【70/100点: 身長も器も小さい男】

フランス第一帝政を率いて近代フランスの基盤を作った英雄ナポレオンの後半生を描いた映画で、映像派監督のリドリー・スコットらしい超キメキメの映像美が全編で楽しめる一作。

ナポレオンの成人後20〜30年を扱った内容なので、尺が160分近くながら結構駆け足な印象も正直したのですが、戦闘シーンが近年の映画でも出色の大迫力なので、この部分だけでも鑑賞価値はあります。

【ネタバレなし】

お話

8世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオンは目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。ナポレオンは夫を亡くした女性ジョゼフィーヌと恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。

その一方で英雄としてのナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、そしてついにフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。政治家・軍人のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、凄惨な侵略と征服を繰り返すようになる。(映画.comより)

「英雄ナポレオン」ではないストーリー

ナポレオンが若者時代から話が始まり、おおよそナポレオンのイメージとはそぐわない、陸軍大尉としてビクビクしながら初めて指揮をする姿が描かれます。初っ端の戦闘に安易と快勝したことから着々と名声を獲得し、男性関係がだいぶ奔放な美しい妻ジョゼフィーヌとも婚約します。

若きナポレオンも、気がつけばフランスの政界にまで手が出せる権力をも獲得。そしてフランススピリッツからくる義憤にかられたナポレオンは、第一権力を持っていた貴族たちにクーデターを起こし、皇帝としてフランス帝国を官立します。

2度目の「皇帝」を演じるホアキン

ナポレオンを演じているのは『ジョーカー』でお馴染みホアキン・フェニックスで、パブリックな場所では威勢を張り、親や妻の前ではウジウジする人物を演じてます。英雄像とは大きく剥離した短気で器の小さく、そして身長も小さいナポレオンということで、過去に同監督の『グラディエーター』でホアキンが演じたローマ皇帝コンモドゥスを明らかに意識したであろう*1キャスティングになっています。

あまりにも“人間ナポレオン”が描かれてることからか、ナポレオンを英雄として偶像化しているフランスでは酷評の嵐だったそうです。そのくらい「実はこの人、身長も器も小物なんです」という描写が強調されており、ホアキン・フェニックスの特徴とも言える神経質な風貌も相まって非常に楽しめます。

かなり駆け足な展開

話も妻との愛想や政治劇、その合間に激しい戦闘シーンといった塩梅で結構面白いのですが、いかんせんかなり駆け足な展開になっているのでかなり集中力がいる映画な感じもしました。

もっとも、元々は本作Apple TVのオリジナル作品で、4時間超えとも言われる*2長尺版の公開も検討されているらしいので、「そりゃ駆け足になるわね」と思ったのですが。

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英語だけだと混乱するお話

フランスが舞台で、他の色んな国の人が出てくるにも関わらず、全編セリフがほぼ英語なことで、「この人どこの国の誰だっけ?」と混乱する部分もあり、セリフ自体はもうちょいグローバルにしても良かったんじゃないか説も正直あります。

そもそも論で、このことに関しては、ハリウッドの史劇全般に言えることでもあるんですが。

戦闘シーンは出色の大迫力

とはいえ、本編中に何度か挟み込まれる戦闘シーンがかなり苛烈で、近年の史劇の中じゃ物量や迫力も段違いな印象です。90歳近い映画監督が作ったとは到底思えないくらい元気いっぱいの戦闘シーンには胸が熱くなりました。

クリエイティブ精神は年齢を超える、って最近良く言われますが、まさしくそれを体現するリドリー・スコット監督の衰えの無さは天晴れといったところです。

*1:コンモドゥスよりは遥かに人間らしい役柄ですけど。

*2:長尺版として検討されているバージョン(オリジナル編集版)は、本編尺の1.5倍である4時間半も尺があるとか。