おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『戦場のメリークリスマス (1983)』【80/100点: 武士道VS騎士道】

もはや映画そのものよりもテーマソングの方が遥かに有名な一作なんですけど、数多ある大島渚監督の映画の中じゃ、やはり本作はトップレベルの面白さでしょう。まあ他の映画が妙に難解ってのもありますけど。

結構前の映画なので、若干ストーリー展開がトロトロしてるのが難点ですけど、濃厚な展開は見応えがあります。

【ネタバレあり】

お話

1942年、太平洋戦争下のジャワ島。日本軍の捕虜収容所では厳格なエリート士官の所長・ヨノイ大尉、粗暴ながらもどこか憎めない古参のハラ軍曹らのもと、英軍将校ロレンスら数百人の連合軍捕虜が日々を過ごす。

ある時、軍律会議に出席したヨノイは、新たに捕虜となった英軍少佐セリアズと出会う。死を覚悟してなお誇りを失わない彼の姿に、ヨノイは不思議と魅せられる。ヨノイは、セリアズを捕虜長へ取り立てようとするが……。(WOWOWのHPより)

動きのない『大脱走

日本軍人のヨノイ中尉とハラ軍曹、俘虜である英国軍人であるローレンス少佐たちが過ごすインドネシアの俘虜収容所に新たに俘虜として収容された、常に反抗的な態度をとるセリアズ陸軍中佐の登場によって大きく人間模様が変化する様が描かれます。改めて観ると、何となく展開に動きがない『大脱走』といった雰囲気が本作の説明で一番的を得ているんじゃないかな、って思います。

英国軍人と日帝軍人の価値観の違い

一番面白かったのが日本軍人と欧州軍人の死生観の違いで、日本兵の面々(特にハラ軍曹)は割と序盤から「何故お前ら外国兵たちは俘虜になる前に、名誉の為に自決をしないんだ?俘虜で過ごすのは恥でしかないだろう?」と俘虜たちに説いているんですが、一方で俘虜であるローレンス少佐などは「我々にとって自決こそが恥なので、俘虜として過ごしているんだ。そもそも僕らは君たち(日本)との戦争に負けはしない」と返します。

これ、前に観た時には全然気がつかなかった点で、おそらく武士道と騎士道の対比展開*1だと思うんですが、そもそも日本兵と英国俘虜間の考え方や思想自体のものさしが全然違うので、これらの点が諸々のトラブルの原因になってくるという感じなんですね。

ラストのハラは「助けてもらいたい」はず

ラストの、有名なビートたけしのドアップも、前に観た時から「サヨナラ!ローレンスさん!」みたいな普通の感動場面と思っていたんですが、今回改めてフルで観ると…日本兵的な武士道精神を捨てきれないので「明日処刑なんだが助けてくれローレンス!」と言いたいのに口が裂けても言えないハラ軍曹*2が、明確な命乞いとして(何重にもオブラートに包んで)「メリークリスマス、ミスターローレンス!」と言っているのに気がつき、エンドクレジットで言いようのない余韻を感じました。

BLの雰囲気が漂う映画

ラストも去ることながら、全体的にも“ローレンスとハラ軍曹”“ローレンスとセリアズ”、そして“セリアズとヨノイ中尉”と、何重にも人間性の対比がされていて、それらによって矢継ぎ早に発生する人間模様にも古い映画なりの凄味を感じた次第です。

特にセリアズとヨノイ中尉の関係は若干BLっぽいんですが、演じているデヴィッド・ボウイ坂本龍一両人の中性的な魅力が妙に説得力があり、オチを知っているのに再見でも面白かったです。

巨匠・大島渚監督らしく、様々な要素がガチガチに絡み合ったちょっと小難しい映画でしたが、映画館で集中してみると新しい気づきの点が発見出来て面白かったですね。

関連作

osugimura-kon.net

*1:武士道には「日本男児たるもの潔く死ぬのが美徳」という考え方があり、一方で欧州の騎士道には「生き残ることこそ美徳で、死んだらそれで終わり」的な自死を禁じるキリスト教がベースになった思想がある

*2:ラストのみハラ軍曹はセリフが英語を喋れるようになっている展開があり、序盤から頭のキレる軍人だったハラ軍曹は戦後の敗戦裁判の間にある程度騎士道のマインドをある程度は理解できるようになったのではないか、というのがワタクシの解釈です。