おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『FALL/フォール (2022)』【90/100点: 地上610m、足場数mのサバイバル】

北米版のポスターにも記載されている「Fear reaches new heights (恐怖が“頂点”に達する)」というダブルミーニングのキャッチコピー*1の通り、本編のほとんどが電波塔の頂上で進行し、鑑賞側はどう見ても詰んでる女子2人を見てドキドキハラハラするワンシチュエーションのスリラーなんですが、目が覚めるくらい面白い映画でした。

【ネタバレ若干あり】

お話

山でのフリークライミング中に夫を落下事故で亡くしたベッキーは、1年が経った現在も悲しみから立ち直れずにいた。親友ハンターはそんな彼女を元気づけようと新たなクライミング計画を立て、現在は使用されていない超高層テレビ塔に登ることに。

2人は老朽化して不安定になった梯子を登り、地上600メートルの頂上へ到達することに成功。しかし梯子が突然崩れ落ち、2人は鉄塔の先端に取り残されてしまう。(映画.comより)

最悪過ぎる状況

私生活に色々あって高所を怖がる女の子ベッキーと、お友達のクライマー兼ライバー(おそらくYouTuber)の“デンジャーD”ことハンターが、正真正銘の陸の孤島である2000フィート(約610m)の電波塔にノリで登ったら「降りられなくなっちゃった!」と大パニックになるという内容で、最悪なことに、この頂上の足場は女の子2人でもやっとな面積しかないのです。

高度が高度なだけに携帯の電波等も繋がらず、さらに「登ったら満足だからすぐに降りようね」という計画性ゼロだったこともあり、食糧もなくお水も水筒1本しかないという状況のトラブル役満で詰みまくる、って内容です。

よく考えたらだいぶ自業自得

バカが鉄塔登ってオタオタしてるだけの因果応報な話なんですけど、いかんせん居る場所が場所なだけにとてつもないハラハラ感であります。単純な内容ながらストーリーの畳み掛けにも強引さが無くて、鑑賞側も徐々に疲れてくるくらいのスリルを味わえます。

女子2人の関係性も絶妙で、塞ぎ込んで若干ヘラってるベッキーと、実質的にすべてのトラブルであるお調子者のハンターのやり取りも、高所に居ることとは別のベクトルのスリル感があります。バズって動画再生数を稼ぎたいだけのハンターに、傷心の中弱みにつけ込まれたベッキーが気の毒っちゃ気の毒でしたけど。

一瞬も無駄な場面がない

ものすごい低予算の映画らしいんですが、そのおかげでなのか無駄な場面が一切見受けられず、終始ドキドキ出来る傑作です。SNS上だと「高所恐怖症の人は覚悟した方が…」みたいな意見もあり、実際にワタクシは高所恐怖症なので、ずっとタマヒュンって感じでしたね。

同じような題材でもう一作観てみたくなる、Dysonばりの吸引力があったパワフルな映画だったと思います。面白いとつまらないが極端なワンシチュエーションの映画の中じゃ、本作は抜きん出て傑作の部類なんじゃないでしょうか。

*1:ちなみに超ウンチクなのですが、ドイツ公開の際はこの「Fear reaches new heights」が本作の公開タイトルにもなっていたりします。