おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス (2022)』【80/100点: エモいヘンテコ映画】

いやあ、笑った笑った。そしてエモい。ヘンテコで面白い映画でした。

SNSをやっている映画好きならば、本作が北米で公開した2022年3月から存在を知っている人も多かったであろう本作。本作がA24製作のインディーズ映画なことに加えて、興行収益が見込みづらいアート系の映画だったこともあってか、日本公開予定が全ッ然決定されず、気が付けば1年経っていました。ありがとギャガさん。

【ネタバレなし】

お話

飯のタネであるコインランドリーの経営が鳴かず飛ばずで経済的に追い詰められたエヴリンが、突如現れたマルチバース世界の敵たちと遭遇。最初はてんやわんやだったエヴリンだったものの、別の世界線で生きるエヴリンの能力を手に入れながら最強になっていく、というような内容。

サブカル女子御用達映画として上映された

ワタクシの記憶だと本作は2022年初頭に北米他で公開されてたはずなのですが、あまりにもエッジの効いた内容もあってか日本の配給が全く決まらず、ワタクシ含めた映画好きをヤキモキさせていたワケです。

年を跨いで数カ月ついにギャガでの配給が決まると、いつも宣伝上手なギャガさんのおかげで開き直ったかのようにサブカル女子御用達感のある映画として公開されていました。とはいえ、映画ファンのワタクシからしてみればオスカーにノミネートされている主演2人の大復活が本当に見所だったと思います。*1

俳優陣が良すぎる

まず主人公エヴリン役のミシェール・ヨーは、個人的に映画史上最強のヒロインと思っている『ポリス・ストーリー3』の中国公安局ヤン部長役の人。

エヴリンのダンナのウェイモンド役は『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』でインディの相棒の少年ショート・ラウンドを演じたキー・ホイ・クワン。どちらともワタクシ的に思い入れのある作品に出てる俳優たちですけど、2人ともオスカーノミネートも頷ける輝きっぷりです。

過去の映画のパロディも満載

「能力を手に入れて力を付けていく」という展開は泥臭い『マトリックス』といった感じで、別の世界線のエヴリンたちもクセありばかりなので、ここら辺が大笑いポイントでした。くだらなかったですねえ。

また、過去映画のパロディだらけなこともあり、ワタクシ的にはその点も抱腹絶倒な点でした。しつこいくらいの『レミーのおいしいレストラン』やウォン・カーウァイ作品へのパロディは呼吸が出来なくなるくらい笑いました。

映像は遊び心たっぷりだが、ドラマは生々しい

展開がトンチンカンな一方で、ストーリーが意外とエモいのも良かったです。エヴリン自体は序盤だとただただ普通の中年女性で、マルチバース世界の別世界のエヴリンに触れた時には「あたしにもこんな生き方があったの!?」と戸惑いを隠せません。

離婚問題に親子喧嘩、経営難でIRS*2の調査まで入っているという詰みっぷりでストレスフルな状態。カオスな映像の割にとてつもなく生々しい状況です。こんな感じでてんこ盛りな要素もあり序盤から中盤にかけては映像含めてだいぶとっ散らかっているんですが、徐々にそれらの要素が一本の線に繋がっていく気持ちよさ。

まるで脳を弄られているような至福の気分でした。

*1:ある意味オスカー受賞で公開された映画とも言えるのですが、本作と同じ状況になってしまったのが、クリストファー・ノーラン監督の新作映画『オッペンハイマー』。こっちはビターズ・エンド配給になったけど

*2:アメリカ合衆国内国歳入庁(Internal Revenue Service)。日本で言う国税庁