おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『フェイブルマンズ (2022)』【75/100点: 巨匠が振り返った学生時代】

巨匠スピルバーグ監督が満を辞して発表した自伝的ドラマですが、本作のメインになっているのは主人公の少年自身ではなく、その両親たち。この両親が離婚をすることで、スピルバーグ少年がどう思ったのか、というだいぶ教訓めいた内容になっています。

まあこんな過酷な環境でも、結果論として”世界一の監督”が生まれた、って考えると両親の離婚もあながち間違えじゃなかった、とポジティブに考えても良いかもしれません。

【ネタバレなし】

お話

初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマンは、母親から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。

母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。(映画.com)

ワタクシが一番好きなスピルバーグ作品も「離婚」がある

ワタクシ的にマイベストなスピルバーグ作品は『未知との遭遇』なのですが、この『未知との遭遇』というUFOが題材のSF映画で描かれるのは、自らの知的好奇心に無我夢中で邁進する男ロイ・ニアリーと、ロイの身勝手な行動で崩壊していくニアリー家。SFらしいファンタジックな映像にも関わらずかなりシビアな内容なこともあり、映像と内容が表裏一体である点がワタクシ的に『未知との遭遇』を「スピルバーグの映画で一番!」と思わせてくれるところなんだと思います。

未知との遭遇』の“引くほど”生々しい家庭崩壊の様子は、スピルバーグ監督の幼少期に実際に体験したエピソードがモデルとなっているんだそうです。それで今回、スピルバーグ監督が自身の体験を基に、満を辞して発表した本作『フェイブルマンズ』では、まさにそんな過酷な少年期が描かれます。

離婚が純粋な子供心を変えた

本作はタイトルの“The Fabelmans(フェイブルマン一家)”の通り、家族の物語。本作の主人公であるサミー・フェイブルマン少年は、幼少期に観たセシル・B・デミル監督の『地上最大のショウ』に魅せられて、後に映画監督を志す純粋な少年。

サミーは父親はエリート技術者で母はピアニストという、それなりに恵まれた中流家庭で育っております。加えて極度の怖がりなことで元々の感受性が高い様子もあってか、冒頭では子供らしさ全開ながら、生まれながらにして凡人ではない感のあるサミー少年が描かれます。

その後もどこか淡々とした目線でサミーの成長を追っていく内容になっており、なるべくして映画監督になっていくサミーの姿はなかなか爽快でした。一方で物語が進んでいくごとにフェイブルマン夫婦の関係性は如実にギクシャクしていくのですが、「子供目線からだと離婚ってこんなに残酷に見えるのか」と思ってしまうドライな雰囲気です。

スピルバーグ史上、最もパーソナルな映画

これまでのスピルバーグ作品では、登場人物の家庭が登場する際に冷め切った夫婦の姿や片親の子供など、家族環境が崩壊している様子が取り入れられているのが特徴で、これらのエピソードの多くがスピルバーグ監督が幼少期に体験した実体験が基になっているのがよく分かりました。「そんなに幼少期の親の離婚が嫌な体験だったんだな」と。

そんな感じで、スピルバーグ作品で最もパーソナルな映画ということになりますが、稀代の天才映画監督が自分のこと振り返るとこんなまとめ方になるんだな、というような面白さがありました。「“映画”に人生支えてもらったんだよね」というような、スピルバーグ監督自身の声が聞こえてくるような良作です。

ちょっと尺が長く感じたけど。