おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『西部戦線異状なし (2022)』【85/100点: 人間性を失う兵士】

過去に何回か映像化されてるドイツの古典文学が原作の戦争映画。この同名の原作がなかなか曰く付きで、第一次大戦直後、ドイツ革命後のワイマール共和政時代のドイツで出版されて評判を呼んだものの、出版から数年後にドイツ第一政党となったナチスに「反戦的過ぎる」と検閲を受け、さらにナチスからの脅しもあり、書いたレマルクは身の危険まで感じてスイスに亡命。

とまあ、原作者レマルクの行く末だけでも一個の物語になりそうな経緯があるんですが、そんなこんなあったこともあり、過去の映像化は“ドイツが舞台”という設定はあるもののすべてハリウッドで行われていました。そんな曰く付きの原作を基に、本作は90年の時を経てドイツ映画界が総力をあげて製作*1した映画になるそうです。

【ネタバレ若干あり】

お話

第1次世界大戦下のヨーロッパ。17歳のドイツ兵パウルは、祖国のために戦おうと意気揚々と西部戦線へ赴く。しかし、その高揚感と使命感は凄惨な現実を前に打ち砕かれる。ともに志願した仲間たちと最前線で命をかけて戦ううち、パウルは次第に絶望と恐怖に飲み込まれていく。(映画.comより)

硫黄島からの手紙』とテーマが似てる

第一次大戦時の北フランス(ドイツから見て西部の前線)を舞台にドイツへの愛国心を胸に入隊した新兵のパウルが、過酷な状況の中で精神的に「結局俺たちって何の為に戦ってるんだろ」みたいに病み始めていく、というような話なので、何となく『硫黄島からの手紙』と似ているストーリーに思いました。

ただ負け戦なのに泥まみれで戦う若者たちの辛さが新兵パウルの目を通して描かれるので、根本的には『硫黄島からの手紙』とアプローチが異なる*2ものの、こちらも個人的にはかなり刺さりました。

人間性を失う場面の辛さ

中盤にパウルが追い詰められたフランス兵士をナイフで刺しつつも「ごめん…ごめん…」と謝り倒しながら死ぬまでを見守るところがあるんですが、そこまでの残酷な戦闘シーンよりもこの場面が一番キツイシーンだった気がします。

本能的に殺してしまったのに人間性を一瞬で取り戻して我に返る、みたいな本作を象徴するような場面で、精神的にキツイ場面ながらなかなか秀逸な一場面でした。「じゃあ殺さなきゃいいじゃん」とか、そういう簡単な場面ではないのです。

戦争は会議室ではなく現場で起こっている

また、パウルが精神的に病んでいく中でドイツ軍の将校たちの進軍決断も描かれております。将軍たちは国の威信もあるので負け戦なこともなかなか認められない状況な為、加えて現場で闘ってるワケでもないからか「これはどんどん軍を進めねば…」みたいに勝手なことを言っています。コレがまた悲惨さに拍車をかけているんですね。

こんな感じで冒頭では脳天気な若者だったパウルが、過酷な環境の中で次々と仲間が死に、人間性を失っていく様はかなり残酷で強烈。尚且つ「戦争ってやっぱり嫌だよね」と考えさせられます。たまにすごく出来の良いドイツ映画が登場しますが、本作もそんな一本だったと思います。

*1:ちなみに、本作の製作総指揮は“ドイツの妻夫木聡(ワタクシ命名)”ことダニエル・ブリュール

*2:硫黄島からの手紙』は何人かの視点から「負け戦」が描かれるので。