おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『ザ・キラー (2023)』【65/100点: フィンチャー映画にしては大人し過ぎる】

未だに『セブン』のファンが多い現代サスペンスの巨匠デヴィッド・フィンチャーの最新作で、『Mank/マンク』に続いてNetflixによる独占配信。

脚本は同じく『セブン』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーで、「さてどんな異色サスペンスになってるのかな」という期待もあったのですが、割と普通な『逃亡者』の劣化版みたいなサスペンス映画でした。

【ネタバレなし】

お話

とあるニアミスによって運命が大きく転換し、岐路に立たされた暗殺者の男が、雇い主や自分自身にも抗いながら、世界を舞台に追跡劇を繰り広げる。

冒頭からフィンチャー映画100%

話としては、対象を殺し損ねた暗殺者が雇い主などからただただ逃げ回るっていうそれだけの話で、D・フィンチャーらしい神経質な映像美は相も変わらず。暗殺シーンも趣向を凝らした残酷さで、結構見応えがあります。フィンチャー映画の特徴でもあるオープニングの異常なカッコよさも健在で、否が応でもテンションを上げさせられます。

ちょっと物足りない

残念ながらオープニング以降は失速気味で、それこそ中盤以降は比較的緩やかに進行している為、若干ダレるタイミングもあったりします。一応、前述の通り合間の緩衝で残虐シーンがある感じではあるものの、「あのデヴィッド・フィンチャーの映画!」と思うと少し物足りなかったのも本音です。

ブラックなお笑いは『ファイト・クラブ』っぽいが…

さらに言うと、本作の主人公”ザ・キラー”ことクリスチャンは、冒頭から失敗ばかりの人間で、逃げる理由自体も自業自得そのものなので、映像のシリアスな雰囲気で分かりづらいのですが、この失敗を補填するノリとしては割とブラック・コメディ寄りな雰囲気なので、これが伝わりづらいのがちょっと残念。

ワタクシが大好きな『ファイト・クラブ』でキレキレでブラックなコメディシーンの数々を見ているだけに、サスペンスとコメディのバランスがグラグラで歪な印象がありました。

大丈夫、フィンチャーは出来る男だ

ただ、一目見て「あっ、デヴィッド・フィンチャーの映画だ!」と分かる映像美やトリッキーなアングルは、より一層エレガントに感じる部分もあり、熟練度に磨きがかかった印象です。あわよくば『セブン』的な胸糞サスペンスをもう一度観たい、というのも本音ですが。