おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『戦場のピアニスト (2002)』【90/100点: ホロコーストの恐怖】

前々から観ようと思っていたんですが、同じくホロコーストを描いたスピルバーグの『シンドラーのリスト』があんまりハマらなかったという部分もあり、正味20年近く観ていなかった一作。

よくよく考えればロマン・ポランスキー監督が『シンドラーのリスト』みたいな湿っぽい人間ドラマを撮るワケないか、と思いこの間観たところ「こんな傑作を20年も見逃していたのか」と後悔するくらい良い映画でした。

【ネタバレなし】

お話

1939年、ナチスドイツがポーランドに侵攻。ワルシャワの放送局で演奏していたピアニストのシュピルマンは、ユダヤ人としてゲットーに移住させられる。やがて何十万ものユダヤ人が強制収容所送りとなる中、奇跡的に難を逃れたシュピルマンは、必死に身を隠して生き延びることだけを考えていた。(映画.comより)

主人公シュピルマン=ポランスキーの投影

ポランスキー本人が劇中のシュピルマンと同じく、ホロコースト影響下のポーランド人で、加えて言うと自身がホロコーストの犠牲者で母親はアウシュヴィッツで死去しているというのが、本作を名作たらしめてる部分な気もします。*1

戦争を一切美化せず「ただただ暴力的な出来事」とされている点がかなり怖く、戦火の中での人の命の軽さを容赦なく描いているのは半ばホラーのようでした。そのくらい人がドンドン死んでいく映画になっており、暴力的な描写も数ある戦争映画の中でも衝撃度は段違いかと思います。何となく精神的に来る「暴力」、というか。

ナチスへの憎悪

また、本作のシュピルマンは、一応実在の人物なので結末まで生き残るのが大筋にはなるんですが、そもそも生き残ったことが若干後味の悪いラストにも繋がっているので、そんな内容込みでそれこそ戦争体験者にしか製作出来ない強烈な映画になっていると思います。

それこそポランスキー監督自身のナチスへの憎悪が色濃く描かれており、ここが凡庸な戦争映画と明確に違う部分なのかな、と思います。

シンドラーのリスト』よりも意図が明白

ワタクシが『シンドラーのリスト』を苦手な理由は、良くも悪くもスピルバーグ映画と特徴である「悪いヤツも実は良いところがある」的ヒューマンな描写です。

ただ、本作『戦場のピアニスト』ではナチス側・ポーランド側ともに登場人物の全てがあんまり血が通ってない雰囲気で、前述の通り主人公の周辺人物ですら呆気なく死んでいく為か、ドラマ性に関しては正直薄いのですが、それ故に「俺が体験した戦争を余すところなく描写してやる」というようなポランスキー監督の強烈なメッセージが伝わってくるような映画でした。

本作を20年越しに初めて観たとはいえ、20年前に中学生だったワタクシが本作の価値を見出せたとは正直思えないので、ワタクシが今『戦場のピアニスト』を鑑賞するのは正解だったのでしょう。精神的にくる描写が何度かある映画ではあるものの、戦争映画の中でも出色の傑作だと思いますね。

*1:ついでに言えば、その後の人生も映画人としては悪い意味で強烈な人生を歩んでいるのですが。