おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『ボーはおそれている (2023)』【80/100点:ハリウッド版追手内洋一こと”ボー”】

鬱スリラーの傑作『ミッドサマー』のアリ・アスター監督と、鬱アメコミ映画の傑作『ジョーカー』のホアキンフェニックスが組んだ、マザコン神経症の主人公が、変死をしたという母親の葬儀に向かう為に数多の苦難を乗り越えて旅をする不条理スリラー。

主人公のボーが『とっても!ラッキーマン』の主人公・追手内洋一並みに地獄のようについてない設定なので、個人的には結構楽しめました。あまりにも内容がエッジ―で暴力的な内容だからか、映画館で左隣に座ってたサブカル系っぽいのお姉ちゃんが中盤くらいで途中退館していたのを目撃しましたが。

あと終盤辺りに出てくる巨大なオチン…(略

【若干ネタバレあり】

お話

日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。(映画.comより)

万人にはオススメできない人情(?)ドラマ

ホアキンが演じている主人公ボーは不安症の中年で、そんな中年が到底住んではいけないようなスラム街で一人暮らしをしています。ある日、ボーは突然「母親が首無しの変死体で見つかった」と連絡を受けて里帰りを実行するんですが、それが紆余曲折だらけの旅になるというモノ。

普通の監督なら90分くらいの人情ドラマになりそうなあらすじですが、本作の尺は約180分。この3時間の間、前述のプロットの基、ボーがひたすら苛め抜かれるような、ハードなマゾヒスト向けの内容になっています。

そもそもで言うと、ハリウッドの2大鬱映画の2人が組んだら「あとは分かるよね?」と言われているかのような極悪で不愉快な作風になっているのですが、一方で、それこそメンタルが参っている人が観るとそれなりに影響が出そうな映画が気がするので、鑑賞する前に「自分大丈夫かな」と自問自答した方が良い気もします。ワタクシはブラックな展開が面白かったのですが、世の中全員がワタクシのような能天気ではないと思うので。

ボーは優柔不断

面白いのがボーが完全に優柔不断な人物に描かれていることで、ボーに不都合な展開ばかりの中、その半分以上はボーの判断の誤りが原因だったりもします。ブッ飛んだ内容ながら、このボーの人物設定は意外にも現実的なのが面白く、「何やってんだボー」というブラックな笑いが漂う目線で観れるのも本作の面白さな気もします。

カップルで観に行っちゃ絶対にダメな映画

一方で注意した方が良い点は、先日観た『哀れなるもの』に引き続き、結構無意味に男性器が出てくる映画になっていることで、ホアキンはフルヌードでトラックに轢かれて、全裸の男に刺されたりとまあ目のやり場に困る描写もあったりします。

しまいには、終盤にギネス級のオ●ンチンのバケモノが出てきたりして、ワタクシはまわりに居たカップルが気まずそうにしている中「何だコレ」と爆笑してしまったのですが、そもそも論だと「こんな映画をカップルで観る方が悪いんじゃないか?」と思う部分もあり、カップルでの鑑賞はマジで辞めた方が良いと思います*1絶対にギクシャクします。ワタクシ、自信があります。

確かにワケ分かんないけど、個人的には好き

意味深な描写も多いことから、色んな考察をしてもう一回観るのも、本作を楽しむ要素の一つかもしれませんね。そんなワケで『へレディタリー』『ミッドサマー』ですら、「アレはまだ全然練習中でしたんで」と思わせるような極悪なアリ・アスター監督作品の最新作。

どうやら本作、北米では結構な大ゴケをしたらしいものの、「こんなエッジの効いた映画を作る人ならば今後も追っていきたい監督だなあ」と再認識しました。というか、この内容の映画が売れたら、さすがのワタクシでも世の中に絶望します。

*1:ワタクシの周辺に居たカップル、マジで何を期待して本作を鑑賞したのだろうか。