ワタクシのアイコンのモデルである映画評論家・解説者、水野晴郎先生が手掛けたの密室型の推理サスペンス映画。
秒で分かる素人演出の中に無理やりヒッチコックなど往年の名監督の技法を(無理やり)ブチ込もうとする荒業に、何故か主役の水野晴郎先生が一挙一動する度に意図してないと思われるシュールな笑いが誘発されるという、不思議な魅力に溢れた映画になっています。
「伝説の駄作」とも言われる映画ではありますが、噂に違わぬ強烈な一作です。
【ネタバレあり】
お話
第2次世界大戦が近づく中、欧州視察やヒトラーとの会見を終えた陸軍大将・山下奉文はシベリア超特急で帰途に就く。モスクワから終着駅・満州へ向けた7日間の旅の最終日、突然事件が発生。同じ列車に乗り合わせたソ連軍大佐が何者かに毒殺されてしまった。事件はそれだけでは収まらず、ひとりまたひとりと乗客が姿を消す。
山下将軍と部下たちは、事件の捜査に乗り出すが、その矢先、姿を見せない暗殺者が山下将軍を標的にし……。(WOWOWより)
映画偏愛だけの「映画」
ワタクシ的には、子供の頃に“映画おじさん”として淀川長治と共に記憶している、金曜ロードショーの名物映画解説者・水野晴郎先生*1。人物としては日本アカデミー賞を創設する等、実は邦画界の重鎮である水野先生なんですが、そんな映画おじさんの水野先生が満を持して映画監督デビューを果たしたのが本作です。
本作のランタイム90分のうち、まともなのはオープニングの「ラストにどんでん返しがあるから見逃すな」的なテロップとエンドクレジットの文字面くらいで、その他の場面は映画文法的なセオリーが完全に破綻してるんですが、そのおかげか延々とツッコめる怪物のような映画になっています。ワタクシのようなクソ映画でも果敢に鑑賞するマニアからしてみたら、こんなに面白い作品はそうそうに出会えません。
映画もすごいが、主人公山下閣下もすごい
当の水野晴郎先生演じる主人公の山下閣下ですが、オープニングから「ボルシチもォ~けっこう美味かったぞう~」と、ナチュラルに『裸の大将』みたいな演技で登場。同行している部下の演技もすんごい酷いんで、のっけから鑑賞している側を『新婚さんいらっしゃい』の文枝師匠ばりにズッコケさせてくれます。
いざ、舞台の特急に乗車してみると窓もカメラも揺れないので、ただ電車風のセットが「ガタンゴトン」と鳴っているだけなことに気が付きます。これまた「おいおい、思いっきりセット丸出しじゃないか…」とさらにズッコケます。
演出が酷いと演技派は「浮く」
棒演技だらけの素人俳優ばかりの為、唯一登場する演技派女優かたせ梨乃の演技が何故か「浮く」という、普通だったら絶対にあり得ない逆転現象が発生しており、推理映画なので事件を解決する名探偵役は当然山下閣下ながら、「どこからそんな結論出てきたんだ」みたいなオチになっています。また、水野先生なりの反戦メッセージが至るところに散りばめられているものの、どれも唐突すぎて全然頭に入ってきません (特にラスト)。
馬鹿な子ほど可愛い
本編中ずっとこんな感じなのに加えて、水野先生肝入りの脚本もサスペンス映画の“お約束”のみで構成された代物だけに大して盛り上がりもせず、ラストの“どんでん返し”はまさかの楽屋落ちという、水野晴郎やりたい放題な一作です。
ワタクシ的な評価も“クソつまんないけど好き”といった感じで、終始ダメな映画ながらも、ある意味「馬鹿な子ほど可愛い」的な映画と思っています。だって見所に関しちゃ、普通につまんない邦画よりも本作の方が遥かに見所だらけですからね。
水野劇場1作目
ちなみに、水野先生ですが、ちゃっかりとこの『シベ超』をシリーズ化しており、水野先生が2008年にご逝去なさるまでに、映画では5作、舞台作品が1作の合計6作という一大シリーズになりました。ワタクシは映画の『シベ超』作品は全部観ているものの、舞台作品である『シベリア超特急4』はまだ未鑑賞。
この作品がまた強烈らしく、「主役なのに舞台上で台詞を忘れる水野先生」「丹波哲郎と水野先生の掛け合いが演技ではなく雑談」という代物だそうで、今後どうにかして映像を観たいと思っている作品だったりもします。
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