おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『猿の惑星/キングダム (2024)』【90/100点: ボス猿のド正論に共感】

東映ヤクザ映画か」と思うくらい続編やリブート作がある『猿の惑星』シリーズの最新作で、一応2011年からのリブート3部作の直系の続きながら、時系列的には3部作の最終章『~聖戦紀』から300年後くらい先の世界が舞台。猿のキャストも一新(そもそも顔分かんないけど)され、初代の『猿の惑星』と同じく、文明が開化する目前の部族社会に生きる、地球の支配者となった猿たちの星となった地球が舞台。

なので、実質的には初代のリメイクとも言え、本作のヴィランであるボス猿“プロキシマス・シーザー”が「猿が文明持ったらダメ?なんでやねん」と言ったりする等、敵なのに言ってることは至極真っ当というキャラなのが面白かったです。

【若干ネタバレあり】

300年後の地球。荒廃した世界で人類は退化し、高い知能と言語を得た猿たちが地球の新たな支配者となっていた。そして、その一部の野心的な猿たちが巨大な帝国(キングダム)を築こうとしていた。帝国の冷酷な独裁者であるプロキシマス・シーザーによって故郷の村を滅ぼされ、家族や友と離れ離れになってしまった若き猿ノアは、旅の途中で出会った年老いたオランウータンのラカから、猿と人間の共存についての昔話を聞かされ、ラカがノヴァと名付けた人間の女性と出会う。

ノヴァは野生動物のような人間たちの中で誰よりも賢いとされ、プロキシマス・シーザーの一派から狙われていた。彼女と一緒に行動することになったノアだったが、プロキシマス・シーザーにとらわれ、ノヴァとともに彼の帝国へ連行されてしまう。(映画.comより)

オープニングで世界観に引き込まれる

本作の主人公であるノアは狩猟民族(というか猿族)の若きハンターで、将来も有望な青年(猿)。ある日にエコー(人間)の少女に会った直後に、その人間を追ってきたと思われる別部族と激闘になり、ノアが居た狩猟民族の村は壊滅的な大打撃を受けちゃいます。ノア自身は死んだと思わせて主人公補正でバリバリ生きていたので、孤立したノアは連れ去られたと思われる仲間たちを追って冒険に出る、ってな内容になります。

シンプルにアドベンチャー映画としても結構面白い導入になっており、「猿の顔が見分けつかへん」と思いつつもいつの間にか引き込まれていました。

ド正論ボス「プロキシマス・シーザー」

前述の通り、「猿が文明持ったらダメ?」「王国が出来始めているのに、過去に人間がしていた生活を目指して何が悪いんや!」と、(悪党ポジションのクセに)観ているこっちからしてみたら「そりゃそうだ!良いこと言うやんけ猿!」と思わせてくるプロキシマス・シーザーがだいぶ魅力的な悪役になっております。

ノア自身も本作の最後付近で「(シーザーと戦ったけど)アイツは間違ってなかった」と言ってしまうくらいド正論キャラなモンで、とても悪役の存在意義として面白いキャラになっていました。

技術が欲しい猿VS「兵器」を渡したくない人間

物語を追うと、主人公に接触しようとした人間の少女メイは、人間の軍事技術を猿たちに渡さんとする、要は人間のエゴの手先と分かるのですが、一方でプロキシマス・シーザーは純粋に技術を欲していただけ。何も彼は「軍隊作りたいねん」とは一言も言ってはいないし、メイ…というか人間たちの懸念は考えすぎっちゃ考えすぎなんですが、そんな人間の浅はかさ故のトラブルが基になり、争いが起こり始めます。

ここで何が上手いって、純粋な気持ちで「技術発展」の技術を欲したプロキシマス・シーザーも、「軍事防衛」を理解していずれは軍隊を持つだろう、と匂わせる点で、実質的に人間の手先であるメイとともに割と考えさせられる構図だったりします。まあ一応、本作でプロキシマス・シーザーは悪役なんで、そんな妄想は叶わないんですけれどね。

都合よく解釈されるリブート三部作の主人公猿「シーザー」

リブート三部作に登場する主人公猿こと「シーザー」も、さすがに死んでから300年経っていることもあり、猿社会の基礎を作った偉人として「シーザー」は神格化されているものの、かつてシーザーが目指した「人間と猿が共存できる社会」も『~聖戦紀』にてあえなく分断の一途を辿ったことで、猿たちには様々な「シーザー」の教えが玉石混淆の状態になってしまっています。

「シーザー」という名前を都合よく使っているのが本作のプロキシマス・シーザーそのものではあるものの、とはいえ「シーザー」の名前に恥じない敏腕リーダーぶりを発揮しており、不器用ながらも自分なりの「シーザー」を体現してるという話なんですね。

新たな「戦争」を予感させるラスト

ラストもラストで、いずれは再度猿と人間の戦争が起こることを匂わせるかなりビターな締めなのもまた面白く、何となく観に行ったのに、結構個人的に琴線に触れる大傑作でございました。

モチーフになっている社会分断などの政治的なメッセージも強烈ではあったけれども、メッセージも押しつけがましくない絶妙な塩梅だったのも良かったです。現状、ワタクシ的には暫定で本年度上位になるだろう映画な気もしてます。