おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『フレンチ・コネクション (1971)』【80/100点: 鬼監督が作った刑事映画】

先日急逝したウィリアム・フリードキン監督の出世作で、同時期の『ダーティハリー』と共に「法を度外視した捜査で事件を解決を目指す刑事」という、模倣されまくっている刑事モノあるある展開の開祖的な存在の映画です。

【ネタバレなし】

お話

ニューヨーク、麻薬密売ルートを探るポパイことドイルと相棒のラソー両刑事は、マルセイユからやってきたシャルニエの尾行を開始。強引な捜査を行なうドイルは逆に命を狙われることになり……。(映画.comより)

伝説の鬼監督ウィリアム・フリードキン

蜷川幸雄大島渚を足して、足した純度そのままのようなスパルタ演出の鬼監督で知られるフリードキン監督ですが、後年の『エクソシスト』でも見られる鬼気迫り意表を突くような内容、胃がキリキリするようなリアルな演出等、フリードキン監督らしいスタイルが本作ですべてが確立されていて、50年以上前の映画ながら見応えはかなりのモノです。*1

本作に至ってはのっけから顔面血みどろの射殺シーンで始まるというなかなかハードなオープニングになっており、この冒頭を筆頭に「これはオトナの映画ですよ」と言わんばかりの脂っこい映像と、男ばっかりの登場人物の数々により漂ってくるかのような「漢」のニオイが凄まじいです。

かなり実話に則している映画

本作の題材になっているフランスからニューヨークまでの薬物入手ルート、タイトルにもある「フレンチ・コネクション(The french connection)」なんですが、1960年代に実際に存在したアメリカへの薬物密輸の入手経路となっていた闇貿易ラインの呼称で、本作のストーリー自体もロビン・ムーアって人が書いたノンフィクション小説が基で出来たとか。*2

例えば「んなアホな…」と思ってしまう、フランス車を全箇所分解してやっとこさ開けてみたリアバンパーの隙間からコカイン袋が大量に見つかるという、手間がかかり過ぎな密輸場面は、実際に事実としてあった押収の一件が基になっているそうです。

↓監督の鬼演出の結果、道路封鎖なしで暴走車を突っ走らせたとされる伝説のカーチェイスシーン↓

言うなれば、リアリズム演出が基本のフリードキン監督と実話の嚙み合わせの良さで出来た刑事モノというワケで、ブチ切れおじさん刑事を演じるジーン・ハックマン、そんなブチ切れ刑事の相棒で窘め役のロイ・シャイダー等、役者陣の熱演も秀逸です。それもこれもフリードキン監督という、スパルタ系監督の演出あってのことか。

伝説の監督はのっけから強烈

フリードキン監督の映画作品として見ると、ワタクシ個人的には後年の『エクソシスト』や『L.A.大捜査線/狼たちの街』の方が好きなんですが、本作にも他のフリードキン映画にも共通するネジが飛んでるかのようなハードな展開の数々は、今観ても相当な熱気を感じます。

とにかく強烈な映画ばかり発表してた伝説の映画監督だけに、先日の訃報はワタクシ的に本当に残念に感じました。

映画ファンなら見逃せない「1972年」

ちなみに一点驚愕の事実が、日本公開に関してこの『フレンチ・コネクション』と『ダーティハリー』はほぼ同時期で公開*3されており、公開当時どちらも鑑賞したという、当時中央大の学生だったワタクシの父親曰く、「どっちの刑事がカッコ良いかで大学の映画談義がすごい盛り上がった」んだそうです。

尚、IMDBで更に調べると日本公開した1972年は、この2作品公開後数カ月のうちに『時計じかけのオレンジ』『ゴッドファーザー』も公開されており、当時の映画好きは脳破壊レベルの映画体験をしていたのが容易に想像できます。

盆と正月が同時に来る、ってまさにこのことか。

*1:ちなみに、本作の主演だったジーン・ハックマンは本作の撮影があんまりにもシンド過ぎて、つい最近まで本作を観たことがなかった、という逸話まであります。

*2:ちなみに、超どうでも良いウンチクではあるんですが、本作内で取り上げられていたフランスからの密輸経路が塞がれた直後に出来たのが、NYマフィアのフランク・ルーカスが整備した”ベトナム・コネクション”。それを取り上げたのがデンゼル・ワシントンラッセル・クロウがダブル主演をした名作マフィア映画『アメリカン・ギャングスタ―』。

*3:どっちも本国公開は1971年なんですが、この時期の海外映画興行は大体半年ほど待たされることが一般的であったそうです。