おすぎむら昆の「あんなま」

直近で鑑賞した映画をひたすらレビューしていきます。

『ゴジラ-1.0 (2023)』【95/100点: “マイナス”どころか大盤振る舞いのゴジラ】

ヒットメーカー山崎貴監督が手掛けた『ゴジラ』シリーズ最新作、且つ“ゴジラ”生誕70年記念作品。本作のあまりの出来の良さに「山ちゃんすごいよ…」と舌を巻きました。もう流石に「ドラクエの山崎貴」とは呼ばれないんじゃないでしょうか。

前作『シン・ゴジラ』がほぼ全編官僚視点の映画だった為か、本作『ゴジラ-1.0』は徹底して民間・庶民側の視点という色分けも良かったです。

【ネタバレ若干あり】

お話

冒頭の舞台は終戦末期。神木くん演じる敷島は特攻隊員ながら死にきれなかったパイロットの少尉で、「特攻機が故障した」と嘘をついて飛行機補修専門の日本軍守備隊がいる大戸島*1に降り立ちます。ホッとしたのも束の間、大戸島の伝承で“呉爾羅”と呼ばれていた15mくらいの生物…っぽい奴に守備隊の基地が壊滅させられてしまいます。奇跡的に敷島は生き残るのですが、色々あって終戦後、敷島は「また俺は生き残ってしまったのか」みたいなテンションで両親と共に住んでいた東京に復員。

帰って早々、実家周辺は焼け野原、両親が死んでいることを知り、加えて近所のおばちゃん(安藤サクラ)に「特攻隊員なのに生き残って、恥知らず!」という最悪過ぎるお出迎え…というかお説教を受けるのですが、そんな折に浮浪者なのに子持ちの大石典子(浜辺美波)と出会い、敷島は典子と赤ちゃん*2を不憫に思ったのか共同生活を始めます。そんな中、ビキニ環礁の核実験(クロスロード作戦)の放射能の影響で巨大化したらしい“呉爾羅”、もといゴジラ東京湾に向かってることが分かりさあ大変、というのが映画の30分までくらいの展開です。

テーマはそれなりに重い

復員兵の神木くんの存在を筆頭に、戦争で全てがなくなった戦後日本が舞台ということで、要所要所は結構内容重いです。思い起こせば、“ゴジラ”という存在自体を戦争のモチーフとして描く、つまり初代ゴジラと全く同じ反戦的なテーマを使うのって、いくら山崎監督ほどのクリエイターとはいえかなり勇気がいることだと思うのですが、それをさも簡単に盛り込み、そして破綻無く展開させたのは特筆に値すると思います。

ってことで、本年だと『Air/エア』と同じく、最高点95点を献上致します。

残虐で容赦ないゴジラ

毎度映像には定評のある山崎貴監督ですが、「僕の集大成」と言ってるだけあってVFX映像や音響の迫力がとんでもないことになっており、基本陸移動だった『シン・ゴジラ』も結構なクオリティではありましたが、今回は陸に海にと行ったり来たり。

ゴジラのサイズも結構現実的な50mということで、リアルなサイズ感なのも良く、おまけにゴジラシリーズとしては(おそらく)異例の“ガンガン人を踏み潰して歩く”というガイラのような描写もたくさんあるので、“怖さ”という点では過去イチでしょう。しかも暴れ回る時の出し惜しみは一切無し。中盤の銀座崩壊のシーンなんて軽く逝きそうでした。

話は確かにおセンチでベタ。でもそれが良い

個人的にはストーリーもワタクシの琴線に触れて面白かったです。神木くんと美波ちゃんの関係性がまた絶妙で、本編中ではお互いに助け合いつつ共同に生きているだけで恋人でも何でもないものの、敷島周辺のおじさんたちは「えっ、一緒に住んでるのにお前ら結婚してねえの?」みたいな半分セクハラを言います。

半分セクハラとはいえオジサンたちは実は正しく、お互いに干渉しないように生きてるつもりでも、さすがに男女なので潜在的に意識しちゃってたっぽいんですね。

些細な幸せと復興の景色を奪う巨大生物

そういうベタとも言えるヒューマンな描写があってから、ゴジラの都市部襲撃シーンが始まるんですが、市井の人間の幸せをジリジリ奪っていくダークな展開、物理的に東京を壊滅させていくゴジラの規格外の大暴れが、戦争から立ち直りかけていく都市部を0どころかそれこそ“マイナス”にしていくのでなかなか強烈です。

前述の神木くんと美波ちゃんの関係性は、ラストまでの伏線としてストーリーを誘引しているんですが、それが消化していくラストは良かったです。まあ鑑賞した人には「ゴジ泣き」って賛否両論あるみたいですが。

ドラマと迫力の映像の両立

ただ過去の『ゴジラ』シリーズでちゃんとドラマを作り上げた作品があったかというと、例えば初代『ゴジラ』など片手で数えるほどしかないと思うので「話がベタで何が悪いんだ」感も感じます。未だに人気の『シン・ゴジラ』は、あえて逆にドラマの構築を放棄した異色作だし。

かねてより『ゴジラ』シリーズではドラマの添え物感が凄かったのですが、本作では迫力の映像にメッセージ性のあるドラマが両立された、作品単体としての纏まりならば初代『ゴジラ』以来の完成度なんじゃないかと思います。

山崎貴の集大成」

とにかく山崎貴監督のゴジラに対する熱狂的な愛、人間讃歌な思想、これまで山崎監督がやった戦争映画のノウハウ等が色濃く出た、「確かに山崎さんの集大成だね」って感じの映画で、とてもとても楽しめました。ゴジラ映画としてではなく、一つの映画としてこの映画にハマりました。

山崎貴、ついにやったな”って感じです。

関連作

osugimura-kon.net

*1:初代『ゴジラ』でゴジラが初登場した島でお馴染みですね

*2:実は典子の子ではない